SUB STORY 〜ガイス〜

 観客の中からため息が漏れた。
 ガイスの外見に見とれてのものである。
 そのバランスの取れた端正な体つきは、初めての人はもちろん、見慣れたはずの人さえも 感嘆させることがあった。
 ガイスはリングに上がると、ゆっくりと相手選手、観客に向かっておじぎをした。

 この紳士的かつ、たおやかな振る舞いが、ガイスが「ミスター獣人ボクサー」との異名を 持つ所以である。

 試合開始のゴングが鳴った。
 突っ込んでくる相手に対して、ガイスの先制のジャブ、ジャブ、ジャブ。
 2発? 5発? それとも10発?
 目にもとまらぬスピードに乗った連打。
 この攻撃で、早くもぐらつく対戦相手。

 連打の合間に対戦相手も打ち返そうとするが、ただ腕を振り回すだけの結果に終わっていた。
 そんな抵抗もむなしく、ガイスの正確かつ無駄のない攻撃に、徐々に、確実にダメージを与えられていく対戦相手。
 だが、完璧なはずのガイスの攻撃に隙ができた。
 正確無比のジャブの一発がわずかに狙いがずれたのである。
 チャンスとばかりにこの劣勢をくつがえそうと半歩踏み出す対戦相手。
 だが、それはガイスの仕掛けた罠だった。

 相手の右に、サウスポーのガイスの左のカウンターが重なった。


 ガイスの足元に這いつくばる対戦相手。
「ニュートラルコーナーへ!」
 レフェリーの指示に従い、ゆっくりとニュートラルコーナーへ向かうガイス。

 必死に立ち上がろうとするが、完全に足に来ている対戦相手。
 レフェリーの容赦ないカウントが進む。
「エイト、ナイン、テン」

 テレビ中継のレポーターのインタビュー。
「ガイス選手、KO勝ちおめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「次は噂されている世界タイトルへの挑戦ですか?」
「それはわかりません」
 興奮気味に質問するレポーターに、淡々と答えるガイス。
 その後もあれこれレポーターの質問が続いたが、ガイスはほとんど聞いていなかった。
 かつてのライバルであり、今は友人であるブロウだったら、この試合について、どんな感想を言うだろうか。
 ブロウだったら、どんな戦いを展開しただろうか。
 そんなことをガイスは考えていた。


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