第七話

「たっだいまー」
ケルギンが大学から戻ると、既に部屋ではガイスが夕飯の支度をすっかり終えていた。
「遅かったな、ケルギン…お前、午後の講議結構取ってんのか?」
「まあね、最初のうちにどかっと単位取っときゃ後が楽でしょ?」
他愛もないやり取り。
しかしガイスはケルギンの手に下げていた袋の中身に気付いた。
「何だ…またCD買ったのか?」
「ん、ああ。やっぱ最新のヒットチャートはチェックするっしょ!」
「お前、そんな事言って仕送りをそんなことに使って…
 最近のお前は何だ!CD、マンガ、ゲームソフト!
 欲しいものがあればすぐに衝動買い!
 そんな浪費ばかりできる身分じゃないだろう?大学生は!」
つい語尾が大声になってしまったのをガイスはしまったと思ったが、
「るっせーなーガイス兄は。
 オイラ、ちゃんとバイトの給料で買ってんだからさ〜」
と、ここまで悪びれる様子がない。

『バイトというのは、他人を殴るアルバイトか!』
こう弟に一喝してやりたい気分であったが…
自分自身もボクサーであり、収入の一部は自分の拳で稼いでる手前強く言い出せない…。
弟が裏のリングに上がっている事を咎める訳ではない…
ただ…ボクシングを安易な金儲けの手段として見ていることに
憤りを感じているのは事実であった…。
ケルギンが物心ついた時からガイスは勉強もスポーツも何でも出来て、
級長や生徒会長といえば必ず推挙される模範生。
さほど教育熱心というわけでもなかった両親ではあったが、
それでもガイスは間違い無く自慢の息子だったと思う。
それに引き換えケルギンはというと、
小学校の頃からやんちゃ坊主として名前が通っていたし、
進んだ高校も大学も定員割れと埋め難い格差がある。
だから口喧嘩になれば一方的に周囲の大人はガイスと一緒になって
弟を責めるし、当然不愉快な比較もよくされてきた。
そんな反発心もあり弟は裏にリングに上がり
日ごろの鬱憤晴らしをしているのかもしれない…
ある意味自分のせいでもあるのではなかろうか?
そんな考えもガイスの頭をよぎった。
苦肉の策ではあるが先日ブロウと話し、パルウェイ会長の一案もあり
今は結果を待つしかないか…半ばあきらめるような形で
自分の気持ちを落ち着かせる事にした…。

「兄ちゃんどうしたんだよ?飯にしようぜ〜♪」
ガイスはケルギンの呼びかけにふと我に返った…
「ん…あぁ…。そ、そうだな…。」
「どうしたんだよ…何かあったのかよ?」
「いや…なんでもないさ…さ、ご飯にするか!」
(今はブロウたちに任せよう…)
そう今一度、自分に言い聞かせガイスは日常に戻った。

(一方、パルウェイのジムにて)
本格的にボクサーとしてのトレーニングを開始したシックル
ブロウやパルウェイの指導もあってか、砂漠の砂が水を吸うように
ドンドンと技術を吸収して行った。
「どうだい?シックル君の様子は?」
パルウェイの問いに対しブロウは…
「あぁ…おやっさん!そうですね…まだスタミナ面には難がありますが…
 流石、狼ってやつですかね…スピードは申し分ないです!
 パワーはそれなりにやつも色々なことやってきたっていうんですかね?
 そんじょそこいらの輩より十分腕っ節ありますよ。」
シックル自身はジムに入門してからそれほど期間がたっていないのだが
他のジムの有力選手とスパーリングまでこなす様になっていたのだ。
ブロウがここまで育成に力を注ぐボクサーも初めてであろうか
久々に活き活きとしているブロウの姿にパルウェイも笑みがこぼれた。

「ではそろそろ…『アレ』の準備にとりかかるかの?」
「『アレ』ですか…おやっさん…そうっすね…
 かなり急ですが試合の相手が決まりましたからね
 あまりゆっくりしていられないですし…
 わかりました!じゃあ…明日あたりにでもシックルに話しますかね。」
「あぁ…そうしてくれ…。」


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